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すべては顧客ために。 老舗でありながら常に最先端を行く特許事務所であり続ける。

木戸 良彦Yoshihiko Kido

木戸特許事務所

所長

「別にお前のところに頼まなくてもいいんだ。」顧客からのお叱りの言葉。気付かされた本当のお客様目線の意味。

慶應義塾大学では理工学部を選択し、研究室では熱力学・熱物性の研究に没頭した。研究の成果が認められ、論文をインドで発表する機会を得た。教授から、「これからの時代は英語で論文が書けなければ、世界で通用しない。」と叱咤激励され、全文英語で書き上げたものだった。喜び勇んで準備に邁進するも、当時テロが発生し、学会への渡航は中止となる。

「悔しかったですね。さらにその後、国内で発表したときには外国人学生に英語で質問されたのですが、全く英語が理解できなかったんです。それも併せて、本当に悔しかった。だからこそ、社会人になってから『絶対英語を習得して、世界で仕事をしていきたい』と思うようになったんです。」
おおらかな雰囲気を持つ、朗らかな笑顔が印象的な木戸だが、内に秘めた目的達成への想いは強い。それは、日頃のクライアントの特許申請に対してはもちろん、弁理士試験受験の際にも同じだった。

「卒業後は色々と迷いもありましたが、父の後を継いで弁理士を志すことを決めました。1年で合格できたことは、まぁ、たまたまです。」

そんなふうにはにかむ木戸だが、合格までには、一心不乱に勉強する日々があった。数年かけて学んでいこうと始めた受験勉強だったが、学びを進めていくうちに、「なんとか今年合格したい」という思いが強くなっていった。

木戸は父親が39歳の時の子どもである。父の年齢も考えると、継ぐのならぼやぼやしてはいられないという思いもあったのだ。猛勉強の末、通常5年はかかると言う弁理士試験に、1年で合格した後は、父の元で120年の歴史の中で蓄積された知識、ノウハウに教えを乞うた。

先代から30年以上もお付き合いのあるお客様担当を引き継ぐことになった時の話だ。そこで木戸は大きな学びを得ることになる。
弁理士になって5年間、仕事にもだんだんと慣れてきたところだった。

「お客様から『別にお前のところに頼まなくてもいいんだ』と言われ、ハッとしました。それまでの自分は、こちらは専門家なのだから、というような傲慢な考え方だったんです。」

見積り資料の提示や問い合わせに対する返答が不親切である点を厳しく指摘されたのだ。しかし自分は、専門外の世界のことを何一つ知らない。特許申請を通すことに職人然として注力していたが、お客様にわかりやすく伝えることや、お客様が本当に必要とされているものは何なのか、という視点が欠落していたのだと気付かされた。

天狗になっていた自分を恥じると共に、事務所全体のそのような雰囲気を変革する必要性を感じ、『お客様の立場に立ったご説明、資料作成』『お問い合わせに対する迅速な対応』をスタッフにも徹底するよう心掛けた。その甲斐あって、お客様との信頼関係も回復し、木戸の弁理士人生が大きく好転し始めた。その矢先、120年続く老舗事務所に新たな危機が訪れる事になる。

リーマンショックが起きたのである。