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「ビジネスの飛躍は交流から生まれる 」創造性を高め、志を導く空間をつくる

吉田 光男Yoshida Mitsuo

ルックス株式会社

代表取締役

「負」であっても大切な父親の財産。息子として二億円の返済を決意。

一念発起しての、北海道移住。都会で休みなく働く生活は一転した。周りは緑に囲まれ、一軒しかない飲食店は夜19時には閉店。家は二間に小さなキッチンがつくのみ。地域の中で、また子どもの通う学校の校長からの紹介で、農家の手伝いをしたり、パソコンの指導をしたりして食いつないだ。地域の方から野菜をもらったり、家族で川の字になって寝たりする環境。実質安定した収入があるわけではなく、不安がなかったといえばうそになるが、そんな自然と人との交流の中での生活は、長女に笑顔を、吉田の生活にお金には代えられない豊かさをもたらしてくれた。メキキの会札幌支部も立ち上げ、月に一度定例会を開催するため、5時間かけて斜里から札幌までバスで通って開催した。人とのつながりこそが宝であり、志を共有する=気脈を敷き詰め、良い世の中を作っていきたいという強い思いからだった。


そんな、何もかもがスタートしたばかりだったある日、吉田の元に思いもかけない便りが舞い込む。父の訃報であった。東京に戻った吉田は、父の会社に二億円の負債があると初めて知らされる。長男であった兄はこの時すでに若くして亡くなっていた。相続を放棄する選択肢もあったが、吉田は敢えて父の会社を継ぐ決意をした。

「継ぐって決めたのは、やっぱりたとえ『負』であっても、大切な父の財産かなと思ったんです。父の息子として生まれたからには、責任を持って返済したいなという気持ちもありました。」

承継してからしばらくは東京と北海道を行き来する生活が続いたが、長女の学校卒業とともに一家は再び東京へ移住。工場跡地と共に、父が事業を拡大、経営していた不動産業も引き継いだ。そして、借金返済に奮闘する吉田を救ってくれたのは、ともに「志」を学んできたコミュニティーの仲間たちだった。吉田の人柄、仕事ぶりを信頼し、紹介からの不動産業務への依頼が相次いだのだ。また、大井町駅から徒歩5分という利便性の良い工場の跡地を、この仲間たちのために何か還元できるものにしたいと考えた吉田は、仲間たちが集えるスペースを作ることに決めた。名前は「バルベックス」 。父の存在、会社への思いを残したい、そんな思いから真空管=radio valveをもじってつけた造語だった。これがレンタルスペース「Valvex」の誕生となったのだ。